「押し紙」とは、大資本である新聞社が圧倒的劣位にある新聞販売店に対し、実際には購読者がいない新聞を押し付けて、これに相当する新聞原価を支払わせることをいう。
平成20年(ワ)第943号 損害賠償請求事件
原 告 原 渕 茂 浩
被 告 株式会社山陽新聞社ほか2名
2009年4月27日
準備書面(5)
岡山地方裁判所第1民事部合議係 御中
原告訴訟代理人
弁護士 位 田 浩
本準備書面は、被告らの平成21年3月6日付準備書面(4)に対する反論を行うものである。なお、以下では、山陽新聞販売(被告岡山東販売)と被告岡山西販売とをまとめて「被告販売会社」と呼称する。
記
1 本件押し紙が独占禁止法に違反することについて
(1)告示第9号の「発行業者」には新聞社の子会社たる新聞販売会社も含むと解すべきことについて
公正取引委員会告示第9号の「発行業者」には新聞社の子会社たる新聞販売会社も含むと解すべきことは、原告準備書面(2)第1の1で詳論したとおりである。
被告は、このような解釈は憲法31条に違反すると論難する。
しかし、本件のように新聞販売会社が新聞社の完全な支配下にあるような場合にも、上記告示の予定する押し紙の禁止が及ばないというのであれば、新聞社とすれば、販売店との間に販売会社を介在させることで、容易に本件告示の適用を免れるという脱法行為を許すことになりかねない。したがって、本件の場合には、本件告示を拡張解釈し、被告販売会社にも適用があるというべきである。
(2)被告販売会社による押し紙は一般指定14項(優越的地位の濫用)に該当することについて
仮に被告販売会社による押し紙が告示9号に該当しないとしても、一般指定14項(優越的地位の濫用)第4号に該当することは、原告準備書面(2)第1の2で詳論したとおりである。また、被告販売会社による押し紙は、一般指定14項第4号(前3号に該当する行為のほか、取引の条件または実施について相手方に不利益を与えること)のみならず、同項第1号(継続して取引する相手方に対し、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること)にも該当するものと解される。なぜなら、押し紙は、被告販売会社が継続的取引を行っている販売センターに対し、その注文部数を超えて不要な新聞を購入させているものだからである。
これに対し、被告らは、原告と被告販売会社の販売委託契約書の記載をもとに、優越的な地位を利用し、正常な商慣習に照らして不当に不利益な条件で取引するものではないと主張する。
しかし、被告らの主張は失当である。
まず、優越的地位の存在については、一般に、次のような場合に認められる。
① 行為者が寡占的な業界に属している反面、取引の相手方が中小企業者であり、行為者の提示する条件を拒絶できない場合、
② 行為者との取引のために、相手方が特別の生産体制をとらされている場合、
③ 系列化が進んでいる場合、
④ 商品・サービスの特性により取引の相手方を変更できない場合、
⑤ 行為者が有力な事業者であり、相手方はその行為者と継続的取引をすることによってのみ、事業の継続が可能になる場合
これらの場合には、相手方の行為者に対する依存度が高く、取引関係を解消することが実質的に不可能であることから、優越的地位が認められるのである(条解独占禁止法・弘文堂212頁)。本件についてみれば、被告らの属する新聞業は寡占的な業界であり、中小企業者にすぎない原告が被告らの提示する条件を拒絶することはできず(①)、山陽新聞の販売センターとして販売地域を限定されて系列化されており(③)、被告らの指定する山陽新聞以外の商品を取り扱うことができない(④)。さらに、被告らは有力な事業者であり、原告の販売センターは被告らとの継続的取引をしなければ事業を継続できない(⑤)。したがって、被告らが優越的地位にあることは明白である。
次に、実売部数を超えて供給することが正常な商慣習として許容される部数は、実売部数の2%の予備紙だけである。これを著しく超える押し紙を購入させることが「正常な商慣習に照らして不当な取引」であることは、告示第9号の趣旨に照らして明らかである。
さらに、被告らは原告に対し、押し紙によって購読されない新聞の仕入原価の負担を余儀なくさせているのであるから、不当な不利益を与えていることも明らかである。
以上からすれば、被告らの原告に対する押し紙は、一般指定14項の優越的地位の濫用に当たるというほかない。
2 本件押し紙が不法行為及び公序良俗違反にあたることについて
(1)本件押し紙が民法709条等の違法性を有することについて
被告らは、独占禁止法に違反したからといってただちに民法90条や民法709条の不法行為に該当するとはいえないと主張するが、失当である。
被告らによる本件押し紙は、独占禁止法19条に違反する行為であるところ、この被告らの行為は、それにより故意に(少なくとも過失によって)原告に損害を与えたものであるから、民法709条の不法行為や同法90条の公序良俗違反に該当するというべきである(大阪高判平成5年7月30日判タ833号62頁以下参照)。
(2)被告らによる共同不法行為の成立について
本件押し紙による不法行為について、被告山陽新聞社に共同不法行為が成立することは、原告準備書面(2)第1の3で詳論した。
これに対し、被告らは、被告販売会社が被告山陽新聞社の支配下にないとか、販売会社の担当者が「本社の意向だから、販売会社で決められない」等と言ったとしても方便にすぎないと主張する。
しかし、被告販売会社の資本関係や役員(被告山陽新聞社の代表取締役をはじめとする同被告の役員又は従業員で占められている)を見れば、完全な支配下にあることは火を見るより明らかである。また、担当者による上記発言は、被告山陽新聞社の販売政策ないし販売指示に逆らえないことを述べているのであって、押し紙が同被告の意思のもとに行われていることを基礎付けるものである。
3 原告のこうむった不利益について
(1)被告らは、原告の主張する損害が平成15年に432万円もあれば、それだけで販売センターが立ちゆかなくなるのに、平成19年3月まで事業を継続しているのは、押し紙のほかに倒産原因があると推察されると主張する。
しかし、被告らの上記主張は、原告の損害に関する主張を正しく理解できていないことによるもので、失当というほかない。
原告の損害(損失)は、違法な押し紙の新聞原価の支払を余儀なくされたことによる損害(損失)である。つまり、原告は、押し紙がなければ得られていた営業利益を違法な押し紙により被告らに収奪されてきたのである。平成15年の損害(損失)だけで直ちに経営破綻に至るようなものではなかったが、このような損害(損失)が平成18年まで増大し続けたことにより、ついに経営を放棄せざるを得なかったのである。
(2)被告らは、原告が独占禁止法の特殊指定について熟知していたと主張するが、否認する。それを熟知したうえで行っていたのは被告らの方である。
また、被告らは、原告が「押し紙」の指摘をしていなかったとするが、否認ないし争う。原告は当時「押し紙」という用語は知らなかったが、購読されない送り部数を減らすよう担当者らに求め続けてきた。
(3)被告らは販売センターと販売会社が「共存共栄のパートナー」であると主張するが、かかる主張が失当であることは、原告準備書面(3)第1の4で詳論した。
また、被告らはテリトリー制により原告を保護しているかのような主張をしているが、裏を返せば、当該地域以外の販売を禁じられていることである。テリトリー制は、まさに被告らの優越的地位を基礎付ける事情の1つにほかならない。
被告らの主張する押し紙による原告の利益なるものが虚構にしかすぎないことは、原告準備書面(2)第1の4で詳論したとおりである。
4 「注文部数」について
被告らは、原告からの仕訳日報表の5日数に基づいて新聞を送っているのだから、注文部数を超えていないと主張するが、失当である。
注文部数とは、実売部数に2%程度の予備紙等を加えた部数をいうのである。公正取引委員会は、株式会社北國新聞社に対する勧告において、「新聞業においては、新聞販売店が実際に販売している部数に正常な商慣習に照らして適当と認められる予備紙等を加えた部数を新聞発行業者に対する『注文部数』としている」と定義している(甲9)。
さらに、上記事件について、公正取引委員会は、北國新聞社が発行部数を拡大するために増紙計画を策定し、その計画に基づいて、新聞販売店に対して注文部数を著しく上回る部数を目標部数として設定し、その目標部数を新聞販売店に提示することによりほぼ目標部数どおりの部数で新聞販売店と取引をしているとし、それにより新聞販売店においては相当部数の販売残紙が生じ、経済上の不利益を受けていると認定したうえ、北國新聞社に対し、同社が新聞販売店に目標部数を提示してほぼ目標部数どおりの部数で取引することにより注文部数を超えて供給することを取りやめること、新聞販売店が注文部数を自主的に決定しうるようにするための措置を講じること等を勧告した(甲9)。
本件においても、被告らは原告に目標部数を提示し、ほぼ目標部数どおりの部数で取引することにより注文部数を超えて新聞を供給しており、上記北國新聞社事件で認定された押し紙とほとんど変わらない。しかも、上記事件は従前の告示が改正されて告示第9号が制定される前の平成9年の事件である。平成11年の告示改正の理由は「現行の規定の仕方からは、発行業者が販売業者の注文部数自体を増やすようにさせた上、その指示した部数を注文させる行為も規制されることが明確になっていないという問題があり、このような行為も明確に禁止の対象とする必要がある」とされている(乙3の2)。すなわち、発行業者と販売業者との合意に基づく押し紙も明確に禁止されたのである。本件押し紙は、そのような新聞取引が告示第9号により明示的・具体的に禁止された後のことであって、その違法性は強いというべきである。
5 「目標数」について
被告らは、目標数は販売センターとの間で協議して決めてきたとか、目標数に不満が出れば数値を変更していたと主張するが、否認する。
そもそも優越的地位にある被告らが販売センターに対して目標数を提示すること自体が優越的地位の濫用に当たりうるものである。上記の北國新聞社事件においても、公正取引委員会は同社に対し、新聞販売店が注文部数を自主的に決定しうるようにするための措置を講じることを勧告している。平成18年下期の目標数の設定の際にも、原告は被告販売会社に対して減紙を求めたが、拒否された。
また、被告らは、目標数と同数又はプラス1部の注文をしてくる販売センターについてそれだけの実売部数があるものと信じてきたなどと主張するが、否認ないし争う。「目標数」は被告らも認めるとおり目標にすぎず、実売部数とは異なるのであるから、仕訳日報表の実売部数が目標数と一致すること自体、本来であれば不自然なのである。被告らは、原告の仕訳日報表の部数が実売部数ではなく、被告らが提示した「目標数」にすぎないことを知りながら、その目標部数を供給していた。北國新聞社のしていた違法行為となんら異ならない。
原告は被告販売会社に対して「読者登録票」や「増減簿」を提出している。それらによって、被告らは実売部数の増減は確実に把握できる。しかも、それらは被告山陽新聞社の子会社である㈱山陽計算センターで一元的に管理され、被告らはいつでも容易に実売部数を確認することができる。また、被告販売会社は原告に対し、必要なときはいつでも読者一覧表や発行表の提示を求めることができる(乙7・6項、乙8・5項)。被告らにおいて実売部数を知らないはずがなく、販売センターの仕訳日報表の部数が実売部数だと信じる客観的な根拠はどこにない。
6 架空の領収書について
原告準備書面(2)第2の3のとおりである。
原告に対して架空領収書の作成を指示してきたのは、山陽新聞販売の赤木本部長や小林副本部長らである。また、同人らは原告に対し、ABC部数調査に備えて、架空の読者や架空のコンビニ等の即売場所を作ったり架空のサービス読者を作ったりして新聞が配達ないし販売されているかのように見せかけるための指導を行った。なお、新聞社がABC部数調査に備えて様々な偽装工作を行うことは知られた事実である(甲62・46頁)。
7 被告らが取引上の優越的地位にあること
被告らが原告に対して優越的地位にあることは、上記1(2)のほか、原告準備書面(3)第1の4で詳論した。
被告らは、JR社宅の立ち退きの際に原告から減紙の申し出があったことを自認しているが、そのときですら被告らは減紙していない。被告らが取引上の優越的地位を濫用し、原告に対する押し紙を続けてきたことは、この一事をもってしても明らかである。
8 被告らによる実売部数の把握について
被告らは、販売センターにおける実売部数を把握することは不可能であり、販売センターの申告を信用せざるをえないとか、実売部数について確認したことはなく、販売センターの仕訳日報表を信じているとか主張する。
しかし、販売センターの実売部数は、上記5で述べたとおり、販売センターから被告販売会社に提出される「読者登録票」や「増減簿」(甲61)により把握できるほか、読者一覧表(甲12~)や発行表(甲21~甲22)をみれば明らかであり、これらの表は被告らが容易に確認できるものであるから、被告らの上記主張は客観的理由を欠き、失当というほかにない。
さらに、被告販売会社は原告ら販売センターに対し、押し紙と同時に発生する不要な折込チラシを廃棄するための段ボール箱を支給している。押し紙がないというのであれば、このような折込チラシ廃棄用の段ボール箱を支給する必要もない。
被告らは、その優越的地位を利用して販売センターに実売部数を著しく超える目標数を提示し、その目標数に応じた仕訳日報表を販売センターから提出させていた。被告らが販売センターとの信頼関係があるので実売部数を確認しないなどという主張をするのは、実売部数を知っていたことを認めると、違法な押し紙と知りつつ目標数を設定し新聞を供給していたことを自認することになるからである。
被告らの上記主張は、実売部数を把握していないことにするためにする主張と考えざるをえない。
9 折込広告料について
被告は、原告が目標数にあわせた部数を注文したのは多額の折込広告料を期待したからであると主張するが、かかる主張が失当であることは、原告準備書面(3)第2の4や原告準備書面(4)第4項(3)で詳論した。
被告らから提出された請求書(乙21)によれば、2003(平成15)年2月の折込広告料は100万円にすぎない。朝刊1部当たりにすると、538円(100万円÷1858部)である。このわずかな折込広告料が欲しくて、その4~5倍以上にもなる新聞原価(セットの場合は1部当たり2992円、朝刊の場合は1部当たり2325円)の支払を余儀なくされる押し紙を進んで購入することなどありえない。折込広告料が少しくらい減っても押し紙を減らした方が利益になるである。
折込広告料は、原告に対する請求から控除される(甲4や乙21の控除明細の「折込料」欄)が、その算出根拠が明らかでない。
以 上
平成20年(ワ)第943号 損害賠償請求事件
原 告 原 渕 茂 浩
被 告 株式会社山陽新聞社ほか2名
平成21年6月26日
岡山地方裁判所第1民事部合議係 御中
被告ら3名訴訟代理人 弁護士 香 山 忠 志
準備書面(5)
原告の準備書面(5)のうち、従前の被告らの主張に反する部分は否認ないし争う。更に以下のとおり反論する。
第1 独禁法上の一般指定と不法行為の関係について
1(1) 原告は、被告らが実売部数(実配部数)をはるかに超えた目標数を一歩的に決め、その目標数かそれ以上の数の新聞部数のの仕入を原告に不当に強制してきた、と主張し、これが独禁法19条、2条9項、一般指定14項の第1号または4号に該当し、不法行為であると主張している。そもそも原告が主張するところの「被告らが実売部数(実配部数)をはるかに超えた目標数を一方的に決め、その目標数かそれ以上の数の新聞の仕入を原告に不当に強制してきた」という事実は存在しない。そもそも実売部数(実配部数)がどの程度あったか、会社分割の前後を問わず、被告ら販売会社は本当のところ知る術がないし、原告自身も把握していなかった(本準備書面第2の2参照)。被告株式会社山陽新聞社は販売には関与していない。独禁法違反行為が直ちに民法上の不法行為となるものではないことは、既に準備書面(1)の第1の3、準備書面(4)の第1の2で述べたとおりである。原告は大阪高判平成5.7.30判タ833号62頁が、独禁法違反により直ちに不法行為とされるとの判断を示した事案として引用しているようであるが、この事例は、「エレベーターメーカー系列の保守業者が系列外の保守業者と保守契約を締結しているユーザーに対して、交換部品だけの販売はせず、部品取替え工事を合わせて発注しなければ注文に応じないとした行為が、独禁法上の抱き合わせ規制に接触する。」とされた例である。これは個別の事案において民法上の不法行為の認定が容易だった事案であり、一般的抽象的に独禁法が直ちに民法上の不法行為になることを認めたものではない。独禁法違反と民法上の不法行為との関係に関する判例の立場は、被告ら準備書面(4)の2頁に記載したとおりである。最2小判昭和52.6.20民集31巻4号449頁は独禁法違反行為が「直ちに無効となるものではない」と判示しているが、その趣旨は独禁法違反行為も民法上は有効であると判示したものと評されているところである。(乙23)。
(2) 原告は本件が一般指定第14項第1号に該当すると主張しているが、これは取引対象とされている商品又は役務以外の商品又は役務の抱き合わせに関する規制であり、本件とは無関係である。
次に、第14項第4号が禁止しているのは「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して」「正常な商慣習に照らして不当に」「取引の条件又は実施について相手方に不利益を与えること」でる。独禁法は公正な競争秩序の確保が目的であり、優越的地位の濫用の禁止も、そうした目的を持つものであるが、他方で抑圧行為によって自由競争が阻害されるのを防止する役割も果たしているところでる。第4号は、こうした見地から立法化されたものである。もとより、販売会社は第14項にいう「優越的地位」に立つものではないことは、既に被告らの準備書面(1)の第2の4で述べたとおりである。本準備書面では販売会社が原告の事業活動に関する自由で自主的な判断を不当に抑圧して原告に不利益を与えるものではないことを明らかにする。
(3) なお、本件は不法行為による損害賠償請求の事案であり、独禁法違反と民法上の不法行為の成否とは直接には関係するものではない以上、独禁法違反のないことについても被告らは以下のとおり反論するが、本件の審理は、被告らの行為が民法上の不法行為を構成するか否かの観点からなされるべきである。
第2 原告と販売会社との間の取引は、一般指定第14項第4号に一切該当しない。
1 原告の自由かつ自主的事業活動と取引条件又は実施についての原告の不利益性について
(1) まず原告と販売会社との関係には契約書(乙7、8)が締結され、その第4項で、「乙は新聞本来の社会的使命と役割を認識し、迅速・確実・丁寧な配達を心がけ山陽新聞の普及増紙に努める。」とあり、その第7項で「毎月の5日定数をもって取引部数とし、甲はその取引部数で代金額を算定する。」と合意されている。「5日定数」とは毎月の5日に仕訳日報表で各販売センターが注文してくる部数のことである。
5日定数による注文も目標数を基準として増紙努力をしたうえでなされることが要求されている(乙7、8の第4項参照)。こうした契約条項は営業という営業の性質上、ごく普通の条項である。そして、この目標数は、販売センターと販売会社との合意又は協議を経て決まっていることについては、何度も述べたとおりである。
(2) 目標数の設定と5日定数について
(一) 目標数とは実売部数に営業紙を加えた部数の目標数である(この点、被告ら準備書面(4)の5頁にある求釈明に対する回答①で「営業目標部数は当然、実売部数である。」とあるのを上記のように訂正する)。この目標数は半期ごと(3ヶ月ごと、あるいは1年単位で行ったこともある)に決めていったため、販売センターがその達成が困難であると判断し、世帯数推移・実売の実情等を販売会社に申し出て協議を求め、販売会社もこれに同意し、目標数の減紙を行っている。
乙24はようやく見つかった清輝販売センターに関する議事録であるが、平成15年11月19日の午前11時から、販売会社から小野社長、鈴木営業本部長、末森営業第2部長が同席して、清輝販売センターの大本所長と協議の場を持ち、平成16年2月から1年間の目標数を決めた。2月の朝刊の目標数を1320部とし毎月の目標数を2部ずつ下げることとなっている。
乙25(乙25は支店の目標数を隠してコピーしたものである。)は平成16年2月から1年間の販売センターの目標数に関する資料である。各販売センターと合意し又は協議して決めた数値が上がっている。乙25は乙24と同じファイルに保管されていた。会社分割の際に関係記録が散逸してしまったようであり、現在までに発見できた目標数決定に関する資料は乙24、25だけである。その他の資料は毎年2、3回実施されるクリーン作戦で法廷保管期間をすぎた書類を廃棄する時に誤って処分されてしまった可能性もある。ネオポリス、北方、玉柏、三勲、高島東、石井の各販売センターの目標数が含まれていないので、これらの目標数を記載したものが別にあるはずであるが現在まで発見されていない。
実際に乙25で平成16年2月以降の清輝く販売センターの目標数をみると、2月(1320部)、3月(1318部)、4月(1316部)、5月(1314部、6月(1312部)、7月(1310部)、8月(1315部。8月は毎年発行部数が多いため減紙していない。) 9月(1306部)、10月(1304部)、11月(1302部)、12月(1300部)とされ、前記の議事録(乙24)のとおり目標数を毎月下げている。これを乙22でみても、このとおりの目標数となっている。平成16年2月は前年実績よりも52部減紙し、3月は前年実績よりも54ぶ減紙し、その他の月も前年の目標数よりも相当数の減紙をしている。乙25によると浦安、州崎、平井西、豊成、浜野、新屋敷もそれぞれ減紙をしている。
乙26は石井販売センター長の兼平氏の陳述書であるが、世帯数減少等を訴えて販売会社と協議のうえ、平成16年2月以降の目標数が前年同月の目標数と比較し相当数減紙してもらった経緯が述べられている。
(二) 次に、岡輝販売センターはどうであろうか。乙25で、朝刊の岡輝販売センターの欄をみてゆくと平成16年5月の目標数は1855部とされている。その右にー8とあるが、これは前年の実績数1863との差である。前年の目標数との差ではない。別紙は乙22をもとに原告の営む「岡輝販売センターの目標数と実績数」をまとめたものである。各年度数値は当該月の目標数を、括弧内は実績数であり、例えば平成13年12月の目標数は1844部であり、実績数はそれより1部多い1845部であることを示す。この表により前年同月の目標数と対比すると、岡輝販売センターについても平成16年5月から10月までの6ヶ月間は目標数を前年同月よりも下げており、その経緯は分らないが、目標数の設定について何らかの話し合いが原告と山陽新聞販売株式会社との間でなされたことを裏付けている。乙25の岡輝販売センターの目標数の数値は、乙22の同期間の目標数の数値と同じ数値である。
過去に、JR社宅の立ち退きの際、平成16年6月ころから、原告が90部の減紙の申出が赤木本部長の訪店のときにあったようであるが、話し合いを経て目標数を減じないことで納得してくれ、平成16年11月ころの平成17年度上期の目標数の設定では何の異議もなく了承している(乙27)。原告が減紙を云々したのもその時だけである。他の時期においても目標数のことで原告から異議なり不服を言われたことはなかった(乙32)。
(三) 18年度下期と19年度上期については、山陽新聞販売株式会社の会社分割の準備の関係で会社側関係者が多忙であったため、山陽新聞販売株式会社において販売センターとの面談ができていない。しかし、18年度下期においては目標数については各販売センターの誰からも異議はなく、それぞれ営業努力してくれた(乙28)。19年度上期については今販売センターと新保販売センターとが電話で異議を述べてきたため、山陽新聞販売株式会社の担当者が訪店して話し合った結果、目標数に同意してくれた。もっとも達成できなかった場合はできた範囲の数字を5日定数として注文を出してきている(乙28)。
(3) 次に目標数が決まった後、目標数と同数がプラス1部で5日定数の注文をしてくれている販売センターが多くみられる。これは販売センターが、販売会社の販売政策を理解してくれて、実売部数がその数値まで現に伸びたか、伸ばす自信があるか、あるいは伸ばすことを了解してくれて、目標数と同数又はプラス1部の注文を出してくれているものと理解している。1日数と5日数が違っている場合もある。例えば、乙22で平成15年1月の朝刊の1日数と5日数の定数表を見比べると、岡輝販売センターの場合、1日数ではー27部の1855部で注文を出してきたが、5日数では1883部の+1部で注文を出してきている。これなどは1日数の注文を出してきてから5日数の注文を出すまでの間に、実際に読者が増えたか、あるいは強い意欲のもとに増やす決意をして注文を出してくれたものと理解している。
次に、別紙の岡輝販売センターの夕刊の目標数と実績数(5日定数)は、乙22に基づいて作成したものである。この表の見方であるが、例えば、平成13年12月の夕刊の目標数は369部であったが、実績はマイナス5部の364部であることを示す。夕刊実績についてみると、朝刊の実績と比べ、1日数・5日数を問わず、マイナス表示が多い。実際の注文部数が目標数に届いていないからである。仕訳日報表による注文が、目標数に縛られないことは原告自ら証明しているのである。これは夕刊の実績、すなわち注文部数には折込広告収入が無関係であることと関係している。夕刊の場合、販売努力をしても折込広告収入が入手できないので、販売意欲が強くならないから目標数をあえて達成しない販売センターが多いのである。
(4) 支援措置、その他
一般指定第14項にいう「取引の条件又は実施について不利益を与える」ものでもない。原告への販売会社から各種の補助、支援措置がなされてきており、その額は多いときで年間200万円前後にのぼっていた(乙29)。原告と販売会社との契約期間は1年(乙7、8)とされ、どちらか一方に異議があれば更新されることはなく、不当な長期の期間設定でもない。更新するか否かは原告自らが判断できる。原告は、契約更新を選択し、その結果、原告は毎月相当額の売上げ(純利益)を得てきたものであり、一般のサラリーマンよりはるかに高収入であった。すなわち、、販売センターは販売会社の支店ではなく、事業者である。一事業者であるからこそ税務申告も独自で行っている。また、販売会社が過去に営業収益の調査を行った資料が4点残されていた(乙30の1~4)。この数字は原告の自主申告に基づくものであり、原告によればパソコンが普及し新聞の購読者が減少したとする平成15年以降でも、十分な利益を上げていた(乙30の3、4)。
2 実売部数は、販売会社の支店であれば、現実の実売部数をつかむことができるが、販売センターは事業者であるため、現実の販売センターの顧客への実売部数を把握することは著しく困難である。確かに、山陽新聞計算センターが存在して、そこで読者一覧表と領収証が印字されるが、現実の読者数については、販売センターの管理に委ねており信頼の原則に基づいて販売センターの申告を信用してきた経緯がある。現在も同様である。今般、領収証の宛名に原渕名義のものが多数発見されたが、これは原告が行方不明となるなど事故が発生したため調査を入れることになり明らかになったものである。何か事故が起こらない限り、事業者の実態を調査することはない。そこには信頼関係の原則に任せている。したがって、販売会社は、販売センターからの注文部数について、現実にその数だけの実売が現に存在するか、あるいは実売できると予想して注文してくるわけであるから、販売会社はその数字を信じているのである。まして、被告株式会社山陽新聞社においては、原告の実売部数を知るはずもない。
まして、原告の場合、①新聞を配達しながら読者台帳(読者一覧表)にも載っていない読者が約50軒、読者台帳には名前が載っているが領収証が発行されていない発行されていない読者が約100軒と合計150軒位も存在していた(準備書面(3)の3(3)、乙19、36)。口座から引き落とされているのに実際には配達していないところもあった。(乙36)。
更に、JR社宅の関係で90部の部数減があると主張していたが、実際集金できていたのは20部前後であり、実売部数も同程度だったと考えられる(乙31)。このように原告は顧客管理、読者管理ができていなかったため、現実の実売部数の正確なところは原告自身も把握できていなかったのである。
(2) 原告は虚偽の領収証はABC部数交差の関係で、山陽新聞販売株式会社の赤木本部長や小林副本部長の助言指導であったと述べている。しかし、この点も嘘である。ABC考査があるとの情報から、その対策を協議したのは平成18年6月のことである。(乙27)。赤木本部長が山陽新聞販売株式会社の担当となったのは平成16年4月から(乙27)、小林副本部長は平成17年3月に山陽新聞販売株式会社津山支社から初めて岡山の本店勤務となり、岡輝販売センターの担当者となったのは平成17年10月からであり、(乙28)、それ以前、両名とも原告とは全く接点を持っていなかった。ところが虚偽の領収証は原渕名義の分は平成14年1月から、原渕名義以外の分は平成13年(「抜き」とか「残券」の分)から存在している。これからしても赤木本部長や小林副本部長の助言指導で虚偽の領収証を作成したとする原告の弁解は偽りであることが分かる。
3 小結
原告の営業努力がたりなかったことは多くの人の証言するところである(乙34、35)。結局、原告は営業努力をしないため読者数が増えないどころか、現実に減少している。読者管理、顧客管理ができていないため、現実の読者数の把握もできていない(乙36)。そのため販売会社から示された目標数の案に異議をいうこともなく漫然と目標数を決めてきた場合が多かったのである。(乙27、28)。朝刊の5日定数による仕訳日報表による注文に際しても利害損得を考慮のうえ(目先の折込広告収入のこともその1つであろう)、あるいは漫然と(乙18)、目標数と同数かプラス一部で注文してきたのである。夕刊の5日定数による注文においては折込広告収入がないため、原告は目標数を大きく割り込む注文も自由に出してきているのである。
以上からして、原告の意思を不当に抑圧して取引を継続したとか、不当な不利益を原告に与えてきたとは到底言えず、一般指定第14項第4号にも該当することはない。
4 結論
まして、販売会社との取引が民法709条の不法行為とは到底いえない。
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